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2012年10月


2012年10月14日
 典型的カイカク支持者


 10月13日付朝日新聞土曜版に、ある民間人による次のような経済解説文が載っていた。

 大卒者の就職率が厳しさを増す中、雇用環境を改善するためにはどうしたらいいか。

 米国で打ち出された QE3 とよばれる新たな施策は、FRBによる量的緩和(quantitative easing)であり、 雇用の改善が十分に見込まれるまで、市場から住宅ローン担保証券を毎月400億ドル買い続けるという もの。

 ローン証券をFRBが買うことで市場金利を下げ、住宅投資を刺激し、住宅価格の上昇をもたらす。 すると家計は将来に明るい見通しを持つことから消費を増やし、景気浮揚につながるというメカニズムである。

 本来、中央銀行の景気に対する役割は、金利を上下することによって貨幣流通量をコントロールすることにあるが、 今の日本のように限りなくゼロに近い金利水準にある場合、 これ以上下げることは難しいし、景気刺激効果も期待できない。そこで、 今回のFRBのような施策が考えられるのだ。

 米国で実施された結果、どうなったか。直後は株価が上昇し、住宅投資もやや盛り返したが、 雇用はなお「力強さを欠く状況」だと、寄稿者は述べる。 よって、このような量的緩和には限界があるという。

 日本では、「日銀が十分に金融緩和を行っていないためにデフレが生じ、 それが景気の足を引っ張っていると言われ、与野党とも金融緩和によるデフレ脱却をうたうが、 本当にそうだろうか?」と、ここで寄稿者は疑問を投げかけている。

 続けて、「そもそも景気が悪いのは家計も企業も将来に明るい見通しが持てないからで、 金利を引き下げたり、貨幣供給量を増やしたり、資産価格を人為的に引き上げても、 将来への不安がなくならない限り、お金を使うようにはならない。 それよりも、ゼロ金利が続くことの弊害(年金の運用がままならないなど)が大きい」と述べる。

 ここまで読んで、私もほぼその通りだと思ったのだが、 呆れたのは、その後の結論である。

 「バブル崩壊以降、危機に直面するたびに先送りされてきた痛みを伴う改革に着手しない限り、 日本経済が活力を取り戻すのはどうやら難しそうだ。若者たちの就職も、またしかりだ。」 とまとめている。

 痛みを伴う改革とは、いったい何を意図しているのか。具体的説明はまったくない。 それが、今世紀に入って小泉政権以来言われてきた、いわゆる規制改革だとすると、 それには効果があまりないばかりか、重大な弊害が伴うことは、この10年ほどで我々国民は、 それこそ痛いほど実感してきたはずだ。

 このようなカイカク論者が言っていることは、いわゆるサッチャリズムのようなサプライサイド政策の類で、 供給側の効率を高めることで景気を刺激しようという試みなのだが、 これは総需要が十分にあるときに行うべきことであって、 現在のような総需要不足による景気低迷期に行うと、益々供給過剰となって、 デフレが深刻化する。私は小泉時代からこの手のカイカクには反対を唱えてきたが、 懸念通りに不況が深刻化してしまい、ようやく政治が転換するかと思いきや、 最近では野田政権が消費増税を決めるなど、需要を痛めつける政策ばかりが繰り返されているのが、 この国の実情だ。

 先のFRBの量的緩和が、あまりうまく行かなかったからといって、それを短絡的に否定するのは 乱暴である。最初から緩和政策を否定したい人たちの常套句ではないかとも勘ぐってしまう。

 これ以上、消費者に痛みを押しつけることは、益々消費マインドを凍てつかせるだけで、 本当に景気は深刻化してしまう。

 多くの国民に、将来への希望を持たせたいのであれば、 大企業や富裕層ばかりを優遇する政策をこそ、改めるべきではないのかと、私は思う。

 痛みを分かち合おうなどときれいごとを言いながら、破綻した大企業は救い、 中小は見放す。富は上から下に流れるというトリクルダウン理論などを持ち出して、 もっともらしく説明しても、その通りにはならない。この国の権力者、大企業は、 下々のことなど、本当は何も考えていないからだ。

 今回取り上げた記事は、ライフネット生命副社長の岩瀬大輔氏による連載コーナーなのだが、 氏のようなビジネスの最前線に居る人間が、こんな御用学者や日和見アナリストみたいなことを大新聞で 発表するのは、罪深いことである。

 彼を個人的に批判するつもりはないが、素人騙しのカイカク支持者の典型例ということで、 紹介させてもらった。



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