時事ネタコラムのページ [利酒日記別室]

2013年7月


2013年7月4日
 よくもぬけぬけと


 参議院選挙が公示された。

 各党党首が様々な場所で第一声を上げたが、安倍首相(自民党総裁)が選んだ場所は、福島だった。 そこで最も力強く訴えていたのは、「ねじれの解消」である。

 衆参のねじれがあるから、復興も経済再生も進まない。だから、参議院でも与党に 過半数の議席が欲しい。そういう内容である。

 ニュースでこのことを知り、私は怒りに震えた。 よくそんなことが言えたものだ。

 金のために海外に率先して原発を売り込もうとしているその張本人が、 よりによって福島で、「復興」という言葉を口にするその無神経さ。 福島の皆さんは、開いた口がふさがらなかったのではないだろうか。

 復興と口では言いながら、実は被災地の人々のことなど考えていない。 自分とは境遇が異なる人の心を慮る気持ちが、政治家には必要だと思うのだが、 多くの議員たちには、そのような能力もなければ、配慮もない。

 困っている人、弱い人を置き去りにし、金を回せば皆が幸せになるかのごとき幻想を振りまき、 結局その金も一部の人たちを潤すのみ。こんな政治のあり方を、 私は何一つ認めることはできない。

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 先日、日本記者クラブで行われた与野党9党の党首討論会で、 安倍首相に対して記者から歴史認識についての質問があった。 先の大戦で、アジア諸国に対する日本の侵略があったのか? との記者の質問に対し、首相は「歴史認識は歴史家に任せるべきで、 政治家は判断しない」と述べた。 記者が「細かなことは歴史家が検証すべきことだが、歴史認識そのものは、 政治家が責任を持って態度を明確にすることではないのか。歴代首相は、皆自己の認識を語っている。 中曽根元首相も述べている」と言うと、首相は「中曽根さんは 判断していませんよ」と返した。 記者は食い下がり、「お言葉ですが、確かに中曽根元首相はご自身の認識をおっしゃっています。 これは事実です」と続けた。それでも安倍首相は、「いや、そんなことはない」と 否定し続けた。
 だが事実は、当時の中曽根首相が「先の大戦は誤った戦争で、日本の中国への侵略はあったと、 私は以前から申し上げている」と答弁していて、その映像もちゃんと残っているのだ。 テレビ朝日「報道ステーション」では当時のビデオを流し、その事実を淡々と伝えていた。

 安倍首相が自らの歴史認識を明らかにしたくないのは、当然と言えば当然。 侵略ではなかった、南京大虐殺もなかったと、自説を言えば批判を受けるし、 だからといって、侵略だったとは口が裂けても言いたくない。 「判断しない」と言うしかないのだ。

 公の場で、一国の首相がこんな大嘘を言って、それが大した記事にもならない 今のこの国の異常さには、戦慄するばかりだ。


2013年7月11日
 選挙が終わったら掌を返すに違いない


 参院選を目前にして、安倍首相の持論であり最もやりたいことであるはずの改憲 の話をほぼ封印している。今は寝た子を起こさずに、選挙で大勝した後に満を持して 話を始めようという魂胆だとしたら、非常に汚いやり方である。

 ニュース番組の討論等で他党から水を向けられると、仕方なくといった感じで応じているが、 概して大人しいトーンに終始している。いや、はっきり言えば本音を隠し、 言い逃れや詭弁を弄する場面が目立っている。

 自民党の改憲草案は、その前文からして国民よりも国家が優先され、97条が丸ごと削除されるなど基本的人権が 天賦の絶対不可侵のものではなく、公益の前に制限されるものとなっている。 そのような野党からの指摘に対し、97条を削除したのは11条と重複するからだとか、 憲法の三原則は守ってゆくなどと返しているが、非常に苦しい言い訳にしか見えない。 97条は「第10章 最高法規」の中に規定されているからこそ意味があるのだが、 自民党はそれを否定したいのだということがわかる。

日本国憲法  第十章 最高法規

第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、 これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、 現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 参院選に大勝すれば、白紙委任を受けたとばかりに、自民党改憲案を実現してゆくと、 鼻息荒く宣言するに違いない。今からそのシーンがありありと目に浮かぶ。 自民党改憲案が万が一にも実現してしまうと、憲法の三原則は、

 国民主権 → 国家主権
 基本的人権の尊重 → 基本的人権の制限
 平和主義 → 非平和主義


へと、それぞれ転換されてしまう。

 この流れを止めるには、今はオブラートに包まれている首相の本音を白日の下にさらし、 その危険な思想を一人でも多くの人に知ってもらうしかない。 一時的にバブルを起こして経済だけに目を向かせようとする安い作戦に騙されてはならない。

 許せないものは許せないと、私は声を上げ続けていく。


2013年7月13日
 狙うは流行語大賞か


 安倍政権の今のところの最大の成果は、「アベノミクス」なる新語を流行らせたこと、 つまり宣伝上手ということであろう。

 内容はともあれ、わけのわからない新語を流行らすことで、 何となく景気が良くなっているかのごとき幻想を振りまくことには成功した。

 経済政策が奏功して、各種指標が上向いてきたと首相は強調するが、 記者会見などで、景気回復が末端にまで及んでいないのでは?という指摘に対し、 これから浸透するなどと返答しているのだが、そもそも安倍政権でやっていることは、 一部の上位層だけで金を回す政策であり、一般庶民にまで降りてくることは、今後もほぼないであろう。

 日銀のトップに自分たちの都合の良い人物をあてがい、日銀の独立性など踏みにじってしまえば、 政府のやりたい放題ができるし、結果をねじ曲げて報告することだってできる。 黒田総裁は、相変わらず「異次元緩和」による成果を強調し続けている。

 先日内閣府が発表した6月の「月例経済報告」 を見ると、数字を都合良く発表するいわば"文学的表現"が満載だ。

 例えば、「個人消費は持ち直している」とする次の表現 (下線は筆者)。

 個人消費は、持ち直している。この背景としては、実質雇用者 所得が底堅く推移(*1)するなかで、消費者マインドが改善(*2)しているこ となどが挙げられる。需要側統計(「家計調査」等)と供給側統 計(鉱工業出荷指数等)を合成した消費総合指数は、 4月は前月から増加し、3か月移動平均でも増加した(*3)
 個別の指標について、最近の動きをみると、「家計調査」(4 月)では、実質消費支出は前月から減少し、「除く住居等ベース」 でも前月から減少した(*4)。販売側の統計をみると、小売業販売額(4 月)は前月から増加した。新車販売台数、家電販売及び旅行は、 このところ底堅い動きとなっている(*5)。外食は、おおむね横ばいと なっている。
 先行きについては、雇用・所得環境が改善するなかで、持ち直 し傾向が続くと見込まれる(*6)

 *1 の実質雇用者所得については、1-3月期の実質雇用者報酬が前年同期比で+0.6% となっていることから確かに改善傾向にはあるが、2012年(年間)も前年比+0.4%だったし、 2011年も前年比+1.3%であったから、顕著に改善しているわけではない。だからまあ「底堅く」 という表現なのだろう。しかし名目定期給与は前年同期比で2月-0.9%、3月-1.1%、4月速報値0.0%であり、 月々の給与は増えていないようである。

 *2 の消費者マインドなど、まさにマインドであるから測りようがない。 そこで、景気ウォッチャー調査を見ると、6月の景気の現状判断DIは53.0と、確かに 横ばいの50を上回ってはいるが、5月の55.7からは低下している。こちらの統計については、 率直に数値を説明していて、「家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてのDIが低下したことから、前月を2.7ポイント下回り、 3か月連続の低下となった。また、横ばいを示す50を5か月連続で上回った。」と書かれており、 「景気は、このところ持ち直しのテンポが緩やかになっている」とまとめている。

 *3 の消費総合指数は季節調整済前期比で2月+0.7%、3月-0.2%、4月+0.1%で確かに4月は若干改善はしている。 しかし、2012年度は同+1.6%、2011年度は同+1.3%であったことと比べると小幅である。

 *4 では素直に実質消費支出が減少していることが書かれている。

 *5 の新車販売台数は、前年同期比で2月-8.1%、3月-11.0%、4月+0.7%、季節調整済前期比は それぞれ+0.4%、-2.2%、+7.5%だから確かにまあ改善傾向にはあるが、昨年よりは悪いのだ。 旅行業者取扱金額(国内)は前年同期比で2月-0.1%、3月-0.2%、4月-0.9%、 旅行業者取扱金額(海外)では前年同期比2月-3.5%、3月-8.1%、4月-12.3%となっていて、 いずれも昨年より悪化。とても底堅いなどとは言えない数値である。

 *6 の雇用所得環境の改善も上記のとおり怪しいし、見込まれるとの表現に至っては、希望的観測でしかない。

 さらに下記の雇用情勢に関する記述などは、まさに自己矛盾した文章となっている(下線は筆者)。

 雇用情勢は、厳しさが残るものの、改善している。
 完全失業率は、4月は前月と同水準の4.1%となった。また、 15〜24歳層の完全失業率は、前月比1.6%ポイント上昇し、8.1% となった(*7)。労働力人口、就業者数、完全失業者数はいずれも増加 した。雇用者数はこのところ持ち直しの動きがみられる。
 新規求人数が増加傾向にあることなどから有効求人倍率は上 昇している。製造業の残業時間は増加している。
 賃金をみると、定期給与はこのところ持ち直しの動きがみられ る。現金給与総額はこのところ底堅く推移している(*8)
 先行きについては、厳しさが残るものの、改善していくことが 期待される(*9)

 *7 の完全失業率そのものは、昨年の4.3%からわずかではあるが確かに改善しているけれど、 15〜24歳層は直近で悪化しているのだ。

 *8 給与に関しては、昨年よりむしろ悪くなっているのだが、 少しずつ元に戻していると言うべきではないか。

 *9 など、あっぱれな文学的表現である。相変わらず悪い状況が続きそうだけど、 良くなって欲しいな!ということなんだろう。

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 首相や、今の経済政策を支持する人たちは、企業の利益を増やせば給料が増えるなどと弁明するが、 企業の利益が増えてもそれが賃金には回されず、すべて内部留保と役員の報酬にだけ回されることは、 前回のミニバブルで証明済みである。 日本のはしたない大企業たちは、利益が上がっても「先行き不透明だから。国際競争力をつけるため」などと称して、 従業員には回さない。そんなことはとっくにわかっているのに、 企業を儲けさせ、さらに法人減税をすれば一般国民にも金が回ってくるなどという寝言を、 未だに多くの庶民は信じている。滑稽至極である。

 そもそも規制緩和などを進めて企業の供給力を高める政策が 総需要不足の現状で実行されれば、ますますデフレギャップが大きくなる。 今取るべき政策はサプライサイドではなく、需要を喚起する政策であるはずなのに、 そんな経済の初歩すらわからず、あるいは意図的に知らぬ振りをして、国民を騙しているのが今の政治である。


2013年7月19日
 「ねじれ」は民主主義のために本来あるべき姿。解消してはならない。


 与党自民党も公明党も「ねじれを解消して安定した政治を」と訴える。

 衆参がねじれているから、政治が停滞している。だからスピード感をもった政治を実行するために、 ねじれを解消しなければならない・・こういった論理に、無批判的に同調する声が多いようであるが、 その考え方自体が根本的に間違っていると、私は思う。

 ねじれがなくなってしまえば、与党の思う政策が、どんどん進められてしまう。 たとえそれが我々のためにならないものだとしても。

 ねじれていることで、一つ一つの政策の是非を真剣に審議することができる。 よく、「野党は反対ばかりしている」との声が聞かれるが、 与党の掲げる政策に承伏できないから、野党は反対するのである。 その攻防の中にあっても、本当に必要な政策なら、与野党合意して実行されるはずだ。

 与党の暴走を許さないために、参院選で与党に議席を与えすぎてはいけない。 目先の景気(人為的なバブル。しかし、一部富裕層にしか関係のないバブル)などに騙されてはならない。

 参院選の結果がどのように出ようとも、私はこれからも、権力の監視をしっかりと続けてゆく。 暴走を絶対に許さないために。



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