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葡萄酒初心者のための仏語教室
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―仏語特有の文字について―
 仏語では、よく、a、i、eなどの文字の上下に「`」や「^」などが付きますが、これを「アクサン記号」といいます (ちなみに「`」はアクサン・グラーヴ、「^」はアクサン・シルコンフレクスという)。このような字は、日本語と混成して用いるとしばしば文字化けを起こすため、当サイトでは原則として、アクサン記号は省略して記述しています (文字ではなく画像に変換して掲載するという手があることはあるんですが、ご容赦ください。手間がかかるんです)。 なお、大文字の場合、アクサン記号は省略するのが一般的です。


CHAPITRE 1
BORDEAUX, BOURGOGNE/ボルドー,ブルゴーニュ
  卑しくも葡萄酒を志す者は、何をさしおいても、まずこの2つは覚えなければなりません。
  この場合、どちらにも入っている"R"の音は、「舌の先を下側の歯の根元にくっつけた上で喉の奥から搾り出すように発音せよ」などとまでは要求いたしません。 ボルドーもブルゴーニュも今や立派な日本語であり、ましてやあなたは仏語会話の勉強をしているわけではないのですから、日本人同士で通じればいいのです。
  しばしば、ボルドーワインを女性的、ブルゴーニュワインを男性的と称することがあります。 それぞれの赤ワインに主に使われている葡萄(前者がカベルネ・ソービニヨン、後者がピノ・ノワール)の特徴を考えると、何だか逆のような気もします。 一般にカベルネはタンニンの力強さに魅力があり、反対にピノは繊細さが命ともいえます。 このボルドーが女性的という理由。一説には、あくまでも「フランスの女性」的という意味なのであって、大和撫子のようなイメージではないとのこと。 ちょっと苦しい説明ですね。私が考えるに、ボルドーワインは、若いうちはタンニンがこなれてなくて、概して硬い印象がありますが、 熟成するとともに魅惑的な柔らかさと深みを兼ね備えてきます。それに対して、ブルゴーニュワインは若いうちから生き生きとした魅力を楽しめて、 基本的な味のラインは変わらないが、熟成とともに重みを増してくる傾向があります。このような様子から、前者を女性的、後者を男性的というのではないでしょうか。

CHAPITRE 2
VIN/ヴァン
  葡萄酒のことです。仏語の名詞は、男性名詞と女性名詞の2つに分けられますが、ワインは男性名詞なので、頭に例えば定冠詞leを付け、 le vin(ル・ヴァン)と言うべきです。なお、女性名詞の頭に付く定冠詞は、la(ラ)です。
  Le vin rouge, s'il vous plait.(ル・ヴァン・ルージュ・スィル・ヴー・プレ/赤葡萄酒をお願いします)
  これだけ覚えておけば、パリのレストランでも、あなたは葡萄酒にありつけます。

CHAPITRE 3
CABERNET SAUVIGNON/カベルネ・ソーヴィニヨン
  あの、川島なお美女史の血管の中を流れていると言われている液体です。
  いや本来は、素晴らしい赤葡萄酒を生む葡萄品種の名前です。ボルドーワインの味わいを特徴づけている葡萄なので、「カベルネといえば、ボルドーの赤」と言ってもいいくらい。 (カベルネといえば、カリフォルニア、というあなたも、決して間違いではありませんが・・・)
  一般に、力強いタンニン(渋味)と豊かなこくが特徴であり、熟成とともに深みのある芳香と滑らかさを生みます。単品ではバランスを欠く恐れなしとしないので、ボルドーでは、メルロ―、カベルネフラン、プチベルドなどとブレンドをして、 バランスをとります。この素晴らしい葡萄は、今や世界各地で植えられており、イタリア、カリフォルニア、チリなどでも上質な葡萄酒が生まれています。特にイタリアでは、従来のワイン法の規定で、 在来品種以外の葡萄を使うとD.O.C(原産地呼称)として認められなかったところ、志ある生産者が、あえて名よりも実を取り、カベルネを使った高品質の葡萄酒を生み出しました。法律の規定上は、最低ランクのV.D.T(ヴィーノ・ダ・ターボラ) となってしまうのですが、市場がこれを歓迎し、とてつもない高値で取引されるようになり、スーパー・ヴィーノ・ダ・ターボラと呼ばれるようになりました。その功績が認められ、上級格付けであるD.O.C.GやD.O.C.に昇格したものが数々あります。  

CHAPITRE 4
PINOT NOIR/ピノ・ノワール
  ブルゴーニュの赤は、基本的にこのピノ・ノワール単品で作られています。但し、南部の方にいくと、ガメイという葡萄が入ってきます。地域区分上、一応ブルゴーニュに入れられているBEAUJOLAIS(ボージョレ)では、 基本的にガメイのみが植えられています。
  カベルネ・ソーヴィニヨンを「カベルネ」と略すのと同様、「ピノ」と呼んだほうが、いくぶんツウっぽいでしょう。
  ピノは、とてもデリケートであり、若いうちからその繊細な味わいを楽しむことができます。従って、繊細な味に敏感な日本人には適したワインではないかと思います。 ただ、酸味が特徴なので、ぴったりくる和食がそれほど多くないのが難点です。ちなみに私は、肉じゃがとか焼き鳥に合わせることがあります(焼き鳥でも、レバー等の内臓系には、ローヌのシラー等が合うようです)。
  この葡萄の栽培に適した気候、土壌を備えている地域はブルゴーニュ以外にはなかなかないようで、北米のカリフォルニアやオレゴン、南米のチリなどで作られてはいますが、 ブルゴーニュに匹敵する品質のワインを生み出すことには成功していないようです。
  なお、NOIR(ノワール)とは、「黒」のことであり、白を意味するBRANC(ブラン)の付いたPINOT BLANC(ピノ・ブラン)という葡萄もあります。

CHAPITRE 5
CHARDONNAY/シャルドネ
  カベルネ、ピノときたら、やはりこれも挙げておくべきでしょう。世界で最も偉大な辛口白葡萄酒を生み出す葡萄品種です。なんと言ってもブルゴーニュはCOTE DE BEAUNE(コート・ド・ボーヌ)地区が本場です。 日本人の葡萄酒初心者に異様に信奉され、また中級者以上に不当に蔑まれていることで有名な、あのCHABLIS(シャブリ)も、この葡萄から作られています。ちなみにシャブリ地区も、離れ小島的位置ではありますが、ブルゴーニュ地方に含まれています。
  シャルドネほど、育てられる気候や醸造方法によって様々なタイプの葡萄酒が生み出されている品種はないでしょう。カリフォルニアやオーストラリアなどの温暖な地域で栽培されたシャルドネは、にわかにブルゴーニュのそれと同じ葡萄であるとは 信じがたいほどです。色も、ブルゴーニュのものとは明らかに違い、ほとんど黄金色に近いものも見受けられます。
  一般にシャープさが魅力と思われるシャブリでも、GRAND CRU(グラン・クリュ=特級)になると、マロラクティック発酵(アルコール発酵の後の乳酸発酵)のお陰もあり、深みがあってまろやかで、かつ、ずっしりと重いタイプになります。

CHAPITRE 6
SOMMELIER/ソムリエ
  ひとことで言えば、葡萄酒給仕人です。
  しかし、それでは職務を正しく表していません。丁寧に言うと、葡萄酒選定・発注・在庫管理・利益率調整・調理補助・接客・給仕担当営業職兼技術者といったところでしょうか。 つまり、レストランにおける葡萄酒まわりのトータルプロデューサーなのです。「何だか難しそうなことをうやうやしく言いつつ素人に高い葡萄酒を押し売りする権威ぶった人」というようなイメージがあるとすれば、 それは、あなたが今まで出会ったソムリエの程度が低かったか、あなた自身がレストランで異常に身構えていたためでしょう。
  彼らは葡萄酒に関してプロであると同時に、接客のプロでもあります。我々客は、日々どんなに葡萄酒を飲み慣れているとは言っても、所詮は素人です。せっかく高いお金を払うのですから、彼らの技術を十分利用し、 かつ、気持ちの良い接待を受けようではありませんか。
  ソムリエは、料理飲食業従事者に対して与えられる日本ソムリエ協会認定の資格ですが、他にも酒類販売業従事者に与えられる「ワインアドバイザー」や、葡萄酒とは関係のない一般人でも取得することのできる「ワインエキスパート」という資格まであります。 また近年、日本ワインコーディネーター協会の認定する「ワインコーディネーター」という資格もできました。なんだかワインブームと資格ブームに乗って、ひと儲けしてやろうという業界の魂胆が見えるような気がしないではありませんが・・・。
  なお、蛇足ですがフライト・アテンダント(俗に言う、飛び職)も接客及び給仕を行うということで、ソムリエ資格を得ることのできる職業とされています。

CHAPITRE 7
A.O.C./アー・オー・セー
  英語の勉強をA、B、Cから始めるように、仏語の勉強もA(アー)B(ベー)C(セー)を覚えることから始まります。だから、超初心者でもA.O.C.くらいは読むことができるでしょう。
  さて、A.O.C.の正体は何かというと、APPERATION D'ORIGINE CONTROLEE(アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ)の略で、邦訳すると「統制原産地呼称」となります (むこうの言葉を訳したものには、どうもこういった硬くて仰々しいものが多いですね。おそらく最初に訳した時代にはわかりやすかったんでしょうけれど)。 ちなみに英訳すれば、Controled Original Nameであり、要は、「(法によってその使用が)制限されている産地名」ということ。
  ワインは農産物の中でも特に産地の土壌や気候に品質が大きく左右されるもの。そこで、産地を正しく表示することによって、一定以上のクオリティを保証するとともに、味の特徴もある程度想像することができるようになります。 「魚沼産コシヒカリ」と書いてあれば、まず間違いはないだろうと考えられるのと同じ(でも本当に基準になるのは「魚沼産」表示よりも値段だったりするわけですが・・・)。
  A.O.C.は、原産地呼称統制法に定められている4等級のうち、最高ランクのものです(これら等級については、当サイト内「利酒日記」ページの冒頭部にある「ワイン法の基礎」を参照)。 ただ、日本人は、高級志向(=我々日本人はそう思っている)あるいは見栄っ張りで味音痴の金持ち(=ヨーロッパ人はそう思っている)ということもあって、輸入されている仏ワインのうち一番多いのがA.O.C.ワインです。
  他の伝統的ワイン生産国にも、同様の法律、等級があります。A.O.C.に相当するものとして、例えばイタリアでは、D.O.C.及びD.O.C.G.(デノミナツィオーネ・ディ・オリジーネ・コントロッラータ・エ・ガランティータ)があります。
  ヨーロッパの大阪人と言われるイタリア人は、そういったお上が決めたことには反発する気風と、名よりも実を取る傾向のため、敢えて法律に定められたぶどう品種を用いて伝統的な製造方法で作ることにはこだわらず、 ただひたすら品質最優先で作ったすばらしいワイン(法律上は最下層に位置するV.d.Tに属する)も多数登場しています。当然のことながら値段は高いです。従って、イタリアでは格付けよりも価格で判断するほうが間違いなさそうです (もっとも、これら「スーパー・ヴィーノ・ダ・ターヴォラ」の内のいくつかは、その後、優柔な政府のお陰でちゃっかりD.O.C.に昇格したりしている。例えば、有名なサシカイアなどがその例)。
  ともあれ、仏ワインであれば、A.O.C.を見て味の見当がつくようになれば、初心者の域は脱したと言えるのかもしれません。でも、いくらA.O.C.に詳しくなったからといって、酒屋さんでアー・オー・セーなどと言ってはいけません。間違いなく、知ったかぶりの嫌味な奴と思われます。 素直にエー・オー・シーと言いましょう。

CHAPITRE 8
NOUVEAU/ヌーヴォー
  新しいという意味の形容詞。
  仏語名詞に男性と女性があるのはよく知られているところですが、これにつく形容詞等も当然、男性と女性の区別があり、また、単数と複数の区別もあります。
  NOUVEAUは、男性単数形。男性複数形は、これにXがついてNOUVEAUX(ヌーヴォー)となります。また、女性単数形は、NOUVELLE(ヌーヴェル)、女性複数形は、SがついてNOUVELLES(ヌーヴェル)です。
  さらに女性単数形のNOUVELLEから最後のLEをとったNOUVEL(ヌーヴェル)という男性単数形もあり、複雑を極めます(これは、母音あるいは無音のhで始まる男性単数名詞の前につくときだけ用いられる)。 一般的な見分け方としては、普通、末尾がEのものは女性形であり、男性も女性も最後にSをつけると複数形になります。ただ、単数形が、-EAUで終わるものの複数形は、-EAUXとなるので、 NOUVEAUの複数形は、NOUVEAUSではなく、NOUVEAUXなのです。

※無音のh:仏語では、hという字は基本的に無音であり、例えば語頭にhがついていても、発音しません(HOTEL=オテル)。ただ、発音はしないものの、有音として扱われることもあり、 この有音のhを、h aspire(アッシュ・アスピレ)といいます。発音しないのになぜ有音かというと、綴り字のルール上、あたかも発音するかのように扱うからです。 従って、無音のhが前の単語の語尾にエリジヨン(母音字省略)を起こすのに対し(例えば、l'hotel=ロテル)、 有音のhはエリジヨンを発生させません(例えば、le hero=ル・エロ)。エリジヨンとは何か、については、別の機会に解説しましょう。

  まったくもって複雑怪奇な仏語ですが、新しいという意味の形容詞は実はこれだけではなく、NEUF(ヌフ)というものもあります。 NOUVEAUが「新しい」を意味する一般的な形容詞であるのに対し、こちらは、「未使用の」とか、「新奇な」といった意味で用います。
  私の手許にある辞書をのぞいてみたら、こんな珍妙な例文が載っていました。
  Sa nouvelle voiture n'est pas neuve. サ・ヌーヴェル・ヴヮチュール・ネ・パ・ヌーヴ
  このnouvelleは、最初に出てきた新しいという意味の形容詞。neuveは、neufの女性形で、やはり新しいという形容詞。この文章を意味を汲まずにただ直訳してみると、 His new car is not new.=「彼の新しい車は新しくない」となってしまい、なんだか意味が通じません。無論、ここではわざと変な英訳、和訳をしてみたわけで、 語意を汲んで和訳すれば、
「彼の今度買った車は新車ではない」となります。
  更に、同じ形容詞でも、名詞の前につくか、後につくかによって意味が変わり、例えば上記例文のようにnouvelle voitureなら「新調した車」という意味ですが、 voiture nouvelleとなれば、「新型車」を意味します。もういい加減にしてくれと言いたいくらいですね。
  ちなみに毎年11月の第3木曜に解禁されるBEAUJOLAIS NOUVEAU(ボージョレ・ヌーヴォー)は、BEAUJOLAIS PRIMEUR(プリムール)とも呼ばれ、このPRIMEURは、 同じ「新しい」でも、「初物」とか、「はしり」という意味があります。
  やれやれ、ここまで読んでくれた方は、きっと仏語なんて勉強したくなくなったでしょうねえ。