時事ネタコラムのページ [利酒日記別室]
2010年2月8日
2010年2月14日
投稿者は、「地デジへの移行は、憲法第29条の規定『財産権は、これを侵してはならない』 に抵触するのではないか?」と述べる。 当コラムで以前書いたことがあるが、 私は、かねがね地デジへの強制移行は、非常に問題が多いと思ってきた。 今さら後戻りはできないとしても、まだまだ解決すべき問題がたくさん残されており、 拙速な完全移行には反対の立場である。 投稿者の論旨は、非常に単純明快。アナログ放送が予定通り来年7月に打ちきりとなれば、 地デジに対応していない受像機や録画機は、その瞬間、ゴミになる。つまりそれは、 個人が購入した資産が、国の施策によって、突然無価値なものになる。 よって、財産権の侵害にあたるというもの。言われてみれば、そのとおりである。 我が家では昨年、それまで使ってきたアナログTVが壊れたので、 仕方なくデジタルハイビジョン液晶TVを購入した。こうやって古いTVの寿命が全うできた家庭はいいが、 そうではなく、まだ使えるのに買い換えなければならないとすると、大いなる資源の無駄であると同時に、 個人の財産が暴力的に奪われることにもなる。 * これを、たくきよしみつ氏は、「貧乏人はテレビを見るな」 という政策だと言っている。まったくそのとおりである。 なぜ地デジに移行するのか?については、 社団法人デジタル放送推進協会のサイト にも書かれているが、主たる理由は、「電波の有効利用」ということになっている。 同サイトでは、電波利用の現状について、次のように説明している。 「日本の現状はもうこれ以上すき間のないほどに過密に使われており、 アナログ放送のままではチャンネルが足りませんが、デジタル化すれば、 チャンネルに余裕ができます。空いたチャンネルは、 今後のさらなる情報通信技術活用社会、情報化社会の進展のために利用することが計画されています。」 電波が過密というのは、既に割り当てている電波帯以外には余裕がないという現状(これは正しい)を 言っているものだが、肝心のその使われ方については、相当に問題が多い。 たとえば、皆さんは、BSデジタルを見ているだろうか。 NHKのBS1、BS2、ハイビジョン、BS日テレ、BSアサヒ、BSTBS、 BSジャパン、BSフジなどがそれ。ほとんど見たことがない、あるいは、 存在すら知らないという人も多いだろう。 放送されている番組は、主に通販、地上波の再放送、外国のドラマなどで、 あまり視聴欲をそそられるものはない。 ひどいのはBSイレブン(11ch)とTwellV(12ch)で、通販番組の比重が非常に高い(右の番組表を参照)。 こんなチャンネルに免許を与えておいて、「電波に余裕がない」とは、よく言ったものである。 国内にはまだ、地デジが受信できない地域がたくさん残されている。 完全移行が予定されている来年7月までにアンテナ整備ができないことが決定している地域 もあり、その地域には、衛星から電波を供給し、パラボラで受けてもらうことと しているようである。それにより、見かけ上、地デジ受信100%が達成されたこととするというのである。 そんなことができるのなら(いや、簡単にできるのはわかりきっている)、 民放全局を最初から衛星放送にすればいいだけのこと。 今のBSデジタルを止めれば、そこにスッポリ入れることができる。 なのになぜ、それをしないかといえば、 現行の「県域免許制度」(TV局は基本的に各県毎に設置する。但し、首都圏、中京圏、近畿圏のみは広域放送) が崩壊してしまうからである。つまり、 衛星から全国に飛ばすということは、全国一律の放送とせざるを得ないから、 東京キー局以外の地方局は、すべて不要となってしまうのだ。 だから、地方局がそんなことを承伏するわけがない。 さらに唖然とさせられるのは、難視聴地域で衛星からの電波を受信する際には、 当該地域で従来からネットされていた系列局の電波だけしか受信させない というのだ(つまり、日テレ系の四国放送しか設置されていない徳島県内の 難視聴地域では、衛星から発せられる東京キー局5局の電波のうち、日テレだけしか見させないということ)。 視聴者の利益などまったく考えられてはいないのである。呆れてモノも言えない。 そんなひどいことまでして、しかも国民の膨大な税金を使って、地デジ用のアンテナを全国に設置し、 結局やっていることは、瀕死の地方局の命を守ることだけ。 地デジ化の本質が、そういうところにあるという実態を、大多数の国民は知らされていない。 当の本人であるTV局がそんなことを漏らさないのはもちろんのこと、 TV局の株主である各新聞社も、絶対に報じない。つまり、公然とした情報操作なのである。 デジタルになって画面がキレイになった!なんて、喜んでいる場合ではない。 情報は、得られるか得られないかがまずは大事なのであって、 画像がキレイでも、情報の絶対量が少ないのなら、まったく意味はない。 画像のキレイさだけでなく、双方向通信もできるというメリットが喧伝されているが、 そんなことはインターネットですればいいことで、TVにそんな機能は不要である。 国民の金を奪い、民間企業である地方局を延命させ、肝心の国民の利益など無視されている。 地域による情報格差の改善など、まったく考えられていない。 これを収奪と言わずして、何と言おう。 もう後戻りはできないとするなら、最低限、国民の利益が確保されるように、 各地域で見たいチャンネルが全部見られるようにすべきである。 たとえばこれまでテレ東系がネットされていなかった地域には、新たにテレ東の電波を供給する。 隣県の放送が見たいという声が多いなら、それも供給する。その程度のことは、物理的にはすぐにできることである。 政権も代わったことであるし、「国民の生活が第一」を掲げる民主党に、 ここはぜひ英断をお願いしたい。 私は大阪に住んでいるので、チャンネル的には首都圏に次いで恵まれている地域だが、 関西近県でいうと、三重県伊賀地方や、福井県嶺南地方や、徳島県では、これまでCATVで 近畿広域圏のアナログ波が供給されてきた。言うまでもなくこれらの地域は、 関西との文化的、経済的結びつきが非常に強く、人の交流も非常に多いからである。 今のまま地デジに完全移行すると、たとえば三重県伊賀地方は、放送免許のテリトリーでは 中京広域圏ということで、文化的にほとんど関係のない名古屋のTVしか、放送されなくなってしまう。 これまでアナログでは許されていたCATVの「区域外再送信」を、地デジ化を機に認めないというのである。 だが、そんなことは、絶対に許してはならない。 民放連は、「居住地域のローカル放送を見て欲しい」という立場だが、 その地域割りは県を単位にして、上から押しつけられたもので、住民の意向は無視されているのだ。 こんな暴挙が進められ、国もそれを後押しするというのなら、 それこそ道州制を待たずに、 伊賀地方は三重県を離脱して奈良県へ、嶺南地方は福井県を離脱して滋賀県へ転籍すべきではないか。 そういった議論も出てきかねない。 (全国にはこういった、県域と文化圏とが異なる地域が、他にもたくさんある) 多くの人に地デジ問題を知っていただくため、今日は書かせていただいたが、 より詳しくは、下記の新書をぜひ参照されたい。 ・荒川顕一 「地デジにしたいなんて誰が言った!?」 HOME 利酒日記のメニューページへ 前月の時事ネタコラム 翌月の時事ネタコラム このページは、K氏の葡萄酒的日常 ・利酒日記の別室で、WEBマスターが時事問題などについて、 勝手気ままに書き綴るページです。 建設的な反論等はwelcomeですが、一方的な抗議のメールなどは受け付けておりません。あしからず。
|