時事ネタコラムのページ [利酒日記別室]

2011年12月


2011年12月6日
 いつか見た光景 〜民営化すればすべてがバラ色になるという幻想〜


 先の大阪市長選挙で当選した橋下徹氏が、かねてから政策として打ち出していた市営地下鉄の民営化を改めて示唆した。

 民営化によって運賃の値下げや、私鉄各社との相互乗り入れの促進が期待できるとの触れ込みだが、 その読みは少々ずれているし、民営化によって多大な弊害が生じる可能性があると、私は考えている。

 そもそも民営化議論は、関淳一市長時代に検討を始めたものだが、次の平松邦夫市長が市営のまま改革を進める方針を取り、 職員数の削減などで2003年度から8年連続で経常黒字を記録した。2010年度決算においては、 ついに公営地下鉄としては全国初めて、累積赤字を解消することに成功した。

 この功績は賞賛に値するものであり、公営のままでも黒字経営が可能であることを実証した。

 ただ、同じ市交通局のバス事業は赤字を続けており、累積赤字は600億円を超えているという。

 民営化に当たっては、バス事業をどうするかが一つの争点となるが、 もしバスだけ公営事業として残して鉄道事業のみ民営化すると、市は稼ぎ頭を失って金食い虫だけ残ることとなり、 財政を一層圧迫する。一方、バス事業と抱き合わせで民営化すれば、不採算のバス路線は縮小、廃止される公算が高い。

 そう考えると、今の公営事業のままさらなる合理化を進めることが、最も好ましいと考えられる。

 橋下新市長は、民営化すれば運賃を下げられると言うが、それと引き換えに、不便な地域のバス路線が 廃止されれば、市内における地区ごとの利便性の格差は確実に拡大する。 たとえば初乗り運賃が現在の200円から1割減の180円になっても、その代わりに廃止されるバス路線が出てくるくらいなら、 値下げなどしないほうがいい。日々市営地下鉄を利用している私はそう思う。 便利な地域に住む人の負担額が減るのと引き換えに、他の地域の人々が犠牲になるなど、とても容認できるものではない。

 また、民営化によって私鉄との相互乗り入れを促進するというが、 本当に鉄道のことをわかった上での発案だろうか。非常に疑問である。

 大阪市営地下鉄各路線のうち、現状で民鉄と同じ架線集電方式(電気をパンタグラフを介して架線から取る方式) をとっているのは、堺筋線のみであるが、同線は既に、阪急電鉄との相互乗り入れを行っている。

 近鉄線と相互乗り入れを行っている中央線は、第三軌条方式(電気を架線からではなく線路脇に設置した給電レールから取る方式)であるが、 これは、近鉄が「けいはんな線」を建設(*注)する際、地下鉄との相互乗り入れを前提に、 地上を走る民鉄としては異例の第三軌条方式を採用したために、実現したものである。

*注:正確には近畿日本鉄道(株)は第2種鉄道事業者として列車の運行を担うこととなり、 路線の建設と保有は第3種鉄道事業者として奈良生駒高速鉄道(株)が行うこととなった。

 市営地下鉄の他路線はすべて第三軌条方式をとっており、現状のままではJRや民鉄と相互乗り入れをすることはできない。 また、集電方式の問題だけではなく、軌間1,067mmの狭軌であるJR線は、1,435mmの標準軌には当然乗り入れることができないので、 どちらかを改軌する(レール幅を合わせる)か、3線軌条とする必要がある。車両も新たに開発する必要が出てくる。

 つまり、相互乗り入れを促進するためには、クリアすべき課題が山積しており、 結局は多大な追加投資を必要とするのだ。

 鉄道の世界では常識的なこのような話を、まさかご存じなくて安易に「相互乗り入れ」などとおっしゃっているのだろうか。 そんな素人の思いつき程度の政策ではないと、信じたいが。

 そもそも民営化すればすべてがバラ色になるかのような言説は、市場至上主義の経済学者が、 経済音痴の政治家に入れ知恵することで生まれるケースが多い。

 元来公営交通は、儲けることが至上命題なのではなく、住民福祉の側面も当然持っているはずである。 稼げる自治体にすることが、橋下氏の政治哲学にはあるようだが、稼げない部分をすべて切り捨て、 黒字を実現したからといって、その陰で少なからぬ住民が犠牲になっているとしたら、そんなものは地方自治ではない。 税金を投入してでも、必要な赤字事業を続けることは、自治体に課せられた義務であると、私は思う。

 市営地下鉄で最も儲かっている御堂筋線を日々自腹で利用している人間の一人として、声を大にして私は言いたい。 御堂筋線の運賃を下げることで不採算バス路線が犠牲になったり、老人の優遇策が削減されるくらいなら、 値下げなどしないで頂きたいと。


2011年12月30日
 来年こそはの思いをこめて


 激動の1年が終わる。

 16年前に震災を経験した関西在住者としては、まさかあれ以上の被害をもたらす震災がくるなんて、 思ってもみなかった。何を話していいのかもわからない。

 今年の漢字にも選ばれた、「絆」の大切さを実感した1年ではなかっただろうか。 

 被災地から遠く離れた地に住んでいる私にできることは少ないが、 ネットで自由に情報発信できる身としては、デマや風評に立ち向かい、 結束を訴えかけてゆくことくらいであろうか。

 個人的には、今年ほど福島の米や果物をたくさん食べた年はなかった。そんなことでしか、 お手伝いできることはないので。

 今年が最悪だった分、来年は良くなる一方と信じたい。



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